台湾内政部は二日、日本の漫画家、小林よしのり氏(47)を出入境・移民法に基づく「好ましからざる人物」として、台湾への入境を拒否する処分を決めた。台湾では二月に中国語版が出版された小林氏の著書「台湾論」の従軍慰安婦などに関する記述が政治問題化し、野党議員らが同氏の入境禁止を求めていた。小林氏は著書の宣伝のため、今月上旬に台湾訪問を予定していた。記事中にある編集長の意見、「入境拒否で台湾は民主的でないと見られてしまう」は誤っている。
[中略]
今回の騒ぎは中国との統一派の野党やマスコミが、同書でも日本の植民地支配に肯定的な見解を表明した李登輝総統や台湾独立派への攻撃の口実に使った側面が強く、政治問題化した。
中国語版を出版した前衛出版社の邱振瑞編集長は「情けない話だ。どうして漫画家一人の発言で社会がこんなに混乱するのか。入境拒否で台湾は民主的でないと見られてしまう。本の是非は議論で決めるべきだ」と話した。同書はすでに五万部を印刷し、在庫がない状態という。
(2001年3月3日付け朝日新聞より)
まず、いかなる者に入国を許すかは各国家が当然に有する基本権の1つである。一般国際法上、外国人は出国の自由は権利として当然に有するが入国の自由は認められておらず、また国家も外国人の入国を認めるべき義務を負わない。すなわち、外国人の入国は当該国家の裁量に広く服くする。(ex. 日本の「出入国管理及び難民認定法」)
次に、入国審査にあたって当該外国人が有する特定の思想活動を理由に入国を拒否することは、台湾に限った国家実行ではない。例えば、日本も上記法の5条11号以下に、特定の思想活動を理由とする拒否事由を複数挙げている。もちろん「思想良心の自由」は絶対的に保護される権利ではあるが(日本国憲法上)、“漫画”等の外部発表手段による「表現の自由」は公共の福祉(内在的制約)に服する。また、当該外国人の表現活動を理由に入国を拒否することはその国家内での表現活動を妨げるのみで、当該外国人がその国家外で表現活動をすることは何ら妨げていない。したがって、人権(表現の自由)面でも問題はない。
さらに、そのような「好ましからざる人物」を具体的に指定することは、国際法上特殊なことではなく、ましてや「民主的でない」ことでも決してない。これは国家の当然の権利であり、むしろ「民主的な」国家ならいずれもが行っていることである。外交関係法上も、自国に不適な人物をペルソナ・ノン・グラータ(=「好ましからざる人物」)として相手国に通告する制度が確立している。(ウィーン外交関係条約9条など参照) そもそも、ある外国人の入国を拒否することが「民主的でない」のならば、民主主義のリーダーたるを自称するアメリカですら「民主的でない」国家であることになる。
以上のような点からも分かるように、今回台湾当局が小林氏に対して行った処分は、問題ある国家実行では全くない。むしろ、台湾の国益を考慮すれば、当然の処分であろう。
※「台湾は(中国本土とは別の)国家であるのか」は大変議論の分かれるところであるが、
少なくとも事実上の国際法主体としては肯定して差し支えなかろう。
(2001-03-04)
少なくとも事実上の国際法主体としては肯定して差し支えなかろう。